≪星の国から風だより≫ 第二回
シンガポールには出稼ぎ労働者が多く住んでいます。人口459万人のうち約100万人が海外から働きに来ている外国人ですが(かくいう私の夫もその一人)、今回はある外国人労働者に起こった悲劇についてお話します。
シンガポールには世界に誇るシンガポール動物園と、夜だけ開園するナイトサファリがあります。私の娘たちも週末となれば夫と出かけて終日楽しく過ごすのですが、中でも特にホワイトタイガーが大のお気に入りでした。ところが事件はまさにそこで起こりました。
11月13日の午後12時30分ころ、動物園の清掃員として働いていた32歳のマレーシア人男性が、突然自らホワイトタイガーの飼育区域に入り、トラ達を故意に威嚇した結果、トラ二匹に襲われて死亡したのです。現場はそこに居合わせた30人ほどの観光客の悲鳴に包まれました。(THE STRAITS TIMES, 2008.11.14)
来園者の証言では、その男性は一時間ほど前から大変興奮した様子で、一人で怒鳴りちらしたり、手元の紙を破り捨てたりしていたそうです。直前には仲間の男性に、「これで君ともお別れだ、さようなら。」と言い残してバイクで走り去った直後の出来事でした。
来園者の悲鳴で異常事態を知った動物園の係員たちは、懸命にトラたちの注意をそらしながらなんとかトラを移動させることに成功しましたが、すでに男性は頭部と頚部を噛まれており、救急車が到着する前に息絶えました。
動物園側は1973年の開園以来、初めて園内で死者が出たことに衝撃を受けたようで、当日男性救出にかかわった20人あまりの飼育係が精神的トラウマから精神科医のカウンセリングを受けていること以外はメディアに多くを語っていません。その後メディアでこの件についてはあまり報じられていないようで、その男性がなぜ園内で自殺を図ったかについても不明のようです。なんらかの精神疾患があったのか、あるいは薬物の影響なのかもしれないと思いますが、シンガポールでは自殺は罪とされていること、また麻薬は所持しているだけで死刑になる国なので、政府もメディア(国営)もこれ以上この件については掘り下げないのではないかと思います。
それにしても出稼ぎ労働者に支えられているこの国で、このようなことが起こったことは我が家をはじめ当地に住む外国人に少なからぬ衝撃を与えたと思います。マレーシア、インド、フィリピン、中国などからの出稼ぎ者は家族を本国に残し、当地の建設現場などで重労働をしています。高級コンドミニアムの建設現場に建つバラック小屋で寝泊りしている労働者たちの姿を見るたびに、この国の社会格差を見せ付けられていましたが、今回はメンタルヘルスのケアも含め、その待遇面についても改めて考えさせられました。
2.出稼ぎ労働とメンタルヘルス関連ページ
- 星の国から風だより
- シンガポールという国、皆さんはどのくらいご存知でしょうか。
- 3.闘病からの気づき
- アメリカに端を発した世界金融危機の波はここシンガポールにも押し寄せ、バブル景気に沸いていた市場は一気に冷えこみ始めました。年々上がる一方だった住宅価格も下がり始め、好景気を見込んで高級コンドミニアムを購入した人々は多額の負債を抱え込んだようです。 昨年この国がバブルに浮かれているとき、私は一人の女性に出会い、改めて人生の価値は財産ではないことに気づかされました。今回はその女性についてお話します。
- 4.暑いお正月に感謝
- 日本では寒い毎日のようですが、当地シンガポールは朝晩「涼しいなー」という感じの冬です。日中は30度近くありますが、プールに入ると水は冷たく、子どもたちは震えながらスイミングをしています。日の出と日の入りは年中7時ごろですが、冬は日の出も多少遅くなるようで、子どもがスクールバスに乗る朝7時でもまだ暗く、月が出ています。
- 5.ママ友の闘病体験
- 乳がんを患った友人Tさんの講演会についてご報告します。
- 6.ホストマザーに学んだ人生
- 今回は3月に訪れたアメリカで感じたことをご報告します。
- 7.マイケル・ジャクソンを悼む
- マイケル・ジャクソンの訃報が世界を駆け巡りました。史上最も成功したエンターテイナーとしてギネスブックに認定されたほどの功績を残したマイケルですが、その私生活は訴訟、ゴシップ、離婚、処方薬依存と波瀾に富んでいました。
- 8.グリーフワーク講座
- シンガポール日本人会厚生部主催でグリーフワークの講座をおこないました。
- 9.私流アンチエイジング
- エイジング(加齢)について真面目に考え始めました。きっかけは先般のグリーフ講座で資料として使った竹内まりやさんの「人生の扉」という歌です。
- 10.「小さな家」から学んだ大きな幸福
- 昨年から私の心を捉えているある子ども文学についてお話します。